004_しのと

「とっくの昔にすり替わっていたんだよ。あの姉妹は」

「気がつかなかった。たしか、11は歳が離れているって言っていたのに」

「妹の方はいたって普通さ。歳相応な見た目だよ。平凡な人生の話をしようか。ある日ね、彼女が少女の頃だよ。庭に咲いていた薔薇についた水滴を飲んだんだって。なんだかその頃にはもう父親に、薔薇には刺があることを教えられていて、刺のない花の部分にだけさわってできることをしたんだよ。少女らしくね。そしたら、その夜に、栗色だった彼女の髪の色は金色に、肌のそばかすは消えて真っ白に、母親似だったとがった唇は父親に似て丸く……—そう、姉そっくりだ。「似たのはあの子のほうなのよ」ってあの女は言うんだ。実際彼女には、あ、姉のほうだよ、彼女の言葉遣いや仕草には、平凡な人生を感じさせられる。あぁ、何て言うんだろう。妹のほうはね、あれは—むしろあれのほうが、幼すぎる。顔立ちの良さから多少大人っぽく見えるがね。もちろん、普通じゃないのは姉の方さ。ここだけの話、あれは化け物だよ。隣の家のご婦人なんて、アレは生き血を吸って生きるヴァインパイアだ、なんて本気で話していたよ。私も実際に外で会ったのはたった一度、それも街灯の少ない夜の小道でのことだけれども、そういった印象を受けたね。幽霊だとか、幻だとか、そんな生易しい印象ではない、足がすくんで動けなかった。ただ恐ろしかった。そんな私を見て彼女は笑ったけれどね。あのとき程、人に侮蔑された経験はないな。人であれば、だけど。

君は彼女と一月もいたんだろ?二人きりで」

「そうだよ。正確には28日と4時間と17分」

「何か、おかしいところはないかい?例えば、、、」

「首もとに歯形でもついてる?」

「う、うん。まぁ」

よく見えたね。暗いのに。まあ、何も変わっていないよ。そもそも僕の前では彼女はいたって普通だったんだ。入れ替わったのも気がつかなかったくらいに」

「なぁ、一つ訊いていいかい?」

「もちろん」

「彼女はいったい何人殺したんだ?」

一人

 

今日もポピーが幸せでありますように。

「明日、死ぬ」と、予測変換機能は「あ」という言葉から紡ぎだそうとした。

わたしがスマートフォンに入力しようとした文字は、「赤坂 ラーメン」だったのにね。

ポピーのために仕立てた祭壇の前に座る。
「ポピー、わたしがウインクするたびにシャッターが切れるの。どう?」
わたしは毎日ポピーの幸せを祈る。

003_海野

「とっくの昔にすり替わっていたんだよ。あの姉妹は」

「気がつかなかった。たしか、11は歳が離れているって言っていたのに」

「妹の方はいたって普通さ。歳相応な見た目だよ。平凡な人生を感じさせる。顔立ちの良さから多少大人っぽく見えるがね。普通じゃないのは姉の方さ。 ここだけの話、あれは化け物だよ。隣の家のご婦人なんて、アレは生き血を吸って生きるヴァインパイアだ、なんて本気で話していたよ。私も実際に会ったのはたった一度、それも街灯の少ない夜の小道でのことだけれども、そういった印象を受けたね。幽霊だとか、幻だとか、そんな生易しい印象ではない、足がすくんで動けなかった。ただ恐ろしかった。そんな私を見て彼女は笑ったけれどね。あのとき程、人に侮蔑された経験はないな。人であれば、だけど。君は彼女と一月もいたんだろ?二人きりで」

「そうだよ。正確には28日と4時間と17分」

「何か、おかしいところはないかい?例えば、、、」

「首もとに歯形でもついてる?」

「う、うん。まぁ」

「何も変わっていないよ。そもそも僕の前では彼女はいたって普通だったんだ。入れ替わったのも気がつかなかったくらいに」

「なぁ、一つ訊いていいかい?」

「もちろん」

「彼女はいったい何人殺したんだ?」

 

今日もポピーが幸せでありますように。

「明日、死ぬ」と、予測変換機能は「あ」という言葉から紡ぎだそうとした。

わたしがスマートフォンに入力しようとした文字は、「赤坂 ラーメン」だったのにね。

ポピーのために仕立てた祭壇の前に座る。
「ポピー、わたしがウインクするたびにシャッターが切れるの。どう?」
わたしは毎日ポピーの幸せを祈る。

 

002_しのと

今日もポピーが幸せでありますように。

「明日、死ぬ」と、予測変換機能は「あ」という言葉から紡ぎだそうとした。

わたしがスマートフォンに入力しようとした文字は、「赤坂 ラーメン」だったのにね。

ポピーのために仕立てた祭壇の前に座る。
「ポピー、わたしがウインクするたびにシャッターが切れるの。どう?」
わたしは毎日ポピーの幸せを祈る。